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ホーム>イベント・事業報告>講演会・シンポジウム 講演会・シンポジウム日本語教育センターシンポジウム2018日本語教育センターの活動の社会還元として、またセンターのFDの一環として、講演会、シンポジウムを開催しています。 正規学部留学生受け入れの新時代
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日 時 | 2019年1月26日(土)13:00~17:00 |
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場 所 | 池袋キャンパス マキムホール M302教室 |
主 催 | 日本語教育センター |
パネリスト | 郭 侃亮 (中等日本語課程設置校工作研究会秘書長・上海市甘泉外国語中学教員) コスチコワ アンナ(モスクワ市 1471番学校教頭) ゼニ クルニアワン (インドネシア全国高校日本語教師会会長・ジョゴロト国立高校) タン テイ ミビン (ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学日本言語文化学部講師) 池田 伸子(国際化推進機構長、異文化コミュニケーション学部教授) |
コメンテーター |
菅沼 隆(経済学部長) 堀中 春菜(入学センター職員) |
コーディネーター | 丸山 千歌 (日本語教育センター長、異文化コミュニケーション学部教授) |
司 会 | 嶋原 耕一 (日本語教育センター 教育講師) |
*シンポジウム冊子はこちら
レポーター:異文化コミュニケーション学部4年次 加藤麻友
こんにちは。学生レポーターの加藤麻友です。今回で第6回目となる2018年立教大学日本語教育センターシンポジウムは、「正規学部留学生受け入れの新時代~多様な留学生徒の学びは大学をどう変えるか~」というテーマで行われました。本学の国際化にともなう留学生受け入れ政策と正規留学生受け入れ、世界各地域の日本語教育の状況の深い関係性を知る大変貴重な機会となりました。
第一部では、本学の正規学部留学生受け入れの新時代について池田伸子先生からご講演をいただき、中国、ロシア、インドネシア、ベトナム各地域からお越しいただいた4名の先生方が、日本語教育事情および日本留学の動向と課題についてのご講演をなさいました。第二部では、教育部局と関連部署からお二人がコメントをされ、質疑応答と全体討議が行われました。
統括副総長で経済学部教授の池上岳彦先生の開会の辞の後、日本語教育センター長で異文化コミュニケーション学部教授の丸山先生が趣旨説明をなさいました。世界で際立つ大学への改革のために本学では、“Rikkyo Global 24”というプロジェクトのもと、現在約500名という外国人留学生の数を2024年には2,000名へと増加させる目標を掲げています。その目標達成のためには、優秀な留学生を獲得するために世界各地域の「中等教育」へのアプローチが必要であると述べられました。
第一部では、はじめに、国際化推進機構長で異文化コミュニケーション学部教授の池田伸子先生より、「本学が迎える正規学部留学生受け入れの新時代」というテーマのもと、現在直面している課題と今後の目標、正規学部留学生の受け入れを増加させる理由、そして本学の使命についてのお話をなさいました。2018年現在の正規学部留学生人数は444人であり、6年後の2024年にはその2倍以上の1000人受け入れを達成する必要があります。このように多くの正規学部留学生を受け入れていく理由として、①少子高齢化に伴う18歳人口の減少 ②グローバル化の2つが挙げられました。現在の “VUCA”の社会において、4年間でハードスキル・ソフトスキル、社会人基礎力、21世紀型スキルを身につけさせながら、学業から就職まで育て上げるという重大な責任があるという覚悟を本学全体で共有していく必要があると述べられました。そして、4年間を通して日本人学生も留学生とともに学ぶことが可能であるという側面からもお話をなさいました。しかし、実際は中国と韓国からの学生が93%を占めているため、本当に多様性があると言えるのかという課題が存在するのが現状です。このようなお話をいただき、正規留学生の受け入れは留学生・日本人学生ともに充実したキャンパスライフを送るためにとても重要なものであると改めて感じました。自分自身も、留学を含め多くの留学生と関わりを持つことにより世界が広がり、さまざまな背景を持つ人々といかに共生していくべきかを学びました。そして、実際に彼らと生活していく中で、正規留学生も短期留学では経験しえないことを経験し、日本社会で生きていく上での貴重な4年間であると実感しています。したがって、「集中日本語教育」「英語展開科目の充実」「本学ならではのきめ細かいキャリア教育」を約束し、規模が大き過ぎることなく教員との距離が近い、「学生が幸せになれる教育」を目指して進んでいくことで、自分のような経験ができる学生が増えてほしいと改めて思いました。
1人目の各地域からの登壇者として、中国の中等日本語課程設置校工作研究会秘書長で上海甘泉外国語中学教員の郭侃亮先生より、中国における日本語教育事情および日本留学の動向と課題のお話をいただきました。中国の日本語教育事情としては、大学入試時に外国語として日本語を選択可能となっており、第一外国語としての日本語学習者は20万人であること、2017年に普通高校日本語課程標準を発表し、多言語課程の充実も図っていることが述べられました。また、中等日本語研究会による支援や、研修、スピーチコンテスト、シンポジウムなどのさまざまな活動を行っているともお話しくださいました。そして、高校生の日本留学への志向については、経済や異文化交流を学びたいという学生が多い一方、大学に入ると日本語学習をやめてしまうケースが多い現状もあるそうです。問題としては、日本の大学についての情報が少ない、進学の壁が非常に大きい、現地入試の規模拡大をすべきだが問題点が非常に多いとのことでした。
2人目の登壇者として、ロシアで10年間教師を務め、8年間日本語教育を専門としているモスクワ市1471番学校教頭のコスチコワ アンナ先生よりロシアでの現状についてお話をいただきました。ロシアでの日本語教育の歴史は15年ほどであり、問題点が多く見られるとご説明なさりました。地域によるカリキュラムの違い、日本語テキスト不足、大学入試や国家試験での日本語選択がないゆえに日本語を学ぶ機会の不足とモチベーションの低下が見られるため、日本語の授業において日本文化に触れ合い興味を持たせるための機会を設けていると述べられました。したがって、日本の大学は経済面、学習面・精神面でのサポートや制度を改めて考える必要があるとお話しくださいました。
3人目の登壇者として、インドネシア全国高校日本語教師会会長のゼニ クルニアワン先生が「インドネシアにおける日本語教育事情および日本留学の動向と課題」についてお話しくださいました。インドネシアでは、インドネシア全国高校日本語教師会でシンポジウムを年一回行っています。日本語は外国語選択の一つとして含まれているが、日本語がある高校は全体で5.7%と少なく、21世紀スキルを取り入れた日本語の授業を行っているのは全体の20%未満であるとご説明されました。しかし、最近はコミュ力重視の授業になっており、日本語へのモチベーションは低くなく、日本の教育は質が良いために6割が留学を希望しているといいます。今後は、日本語力、日本での生活と文化における不安、日本の情報と手厚いサポートの必要があるともお話しくださいました。
最後の各地域からの登壇者として、ベトナム国家大学ハノイ校外国語大学日本言語文化学部講師のタン テイ ミビン先生が「ベトナムにおける日本語教育事情および日本留学の動向と課題」についてのお話をなさいました。2007年に高校で日本語教育が開始されるなどの日本語教育の歴史をご説明いただいた後、ベトナムでの日本語教育の問題点をいくつかお話しくださいました。まず高校への進学が厳しいこと、教材や環境不足、金銭面での不安と日本への依存、コミュニケーション能力などの実践的な能力が低いということです。そのため、他の言語に比べて日本語学習者数は少ないといいます。したがって、情報不足、金銭面、仲間づくり、英語力低下、就職、地震、日本語能力、日常生活への不安を改善すべきだと述べられました。各地域からの4人の先生のご講演を聞き、情報不足という課題点を第一に改善すべきだとかんじました。現地に赴き本学について知ってもらうことで、各地域の学生が抱く日本留学に対しての不安を少しでも取り除き、前向きな考えを持つことが可能なのではと感じます。
そして第二部では、まず本大学経済学部長の菅沼隆先生より経済学部における留学生受入れ状況のお話をいただきました。経済学部のみでは本学が設置した目標は達成しており、2017年には、学部の「国際化推進委員会」での継続的な協議や成績調査、留学生面接、担当教員アンケートによる留学生への対応を行っていると述べられました。一方、これらの対応を通して、いくつかの問題が浮き彫りになっています。成績不良のケースが多く、低単位所得者が一定数存在しており、その原因は、友人作り、ネットワーク、相談が相手いない、試験などでの論述問題、ゼミに入れず意欲がダウンしてしまうといったものです。教師側からの所見でも苦労点が見られているが、問題を感じていない教員がほとんどであるため、教員からは留学生が抱える困難がよく見えていない可能性があるとのご指摘をなさいました。 そして、低単位留学生からの聞き取りにより、バイトやサークルなどの私生活でも困難を抱えていることが明らかになっていました。そこで経済学部は、全教員による情報共有、会議での「留意・配慮」の確認、留学生全員と教員の懇親会、日本人学生による交流と支援グループの組織化といった対応を行ったと述べられました。今後の課題としては、2年次進学前に、日本語の経済学専門用語を習得するプログラムの開発、作文・漢字能力の強化、ゼミ所属率の向上、留学生が特定の専門ゼミに集中する状態の改善が必要だと述べられました。
その後、入学センターの堀中春菜氏により、現在の入試制度とそれに伴った外国人留学生の現状、情報発信、ニーズに合わせた入試改革、多様な学生に対応可能なカリキュラムの設置といった課題についてご説明をいただきました。
最後に、今回のシンポジウム内容を踏まえて、「多様な日本語力の学生を迎えるために何が必要か。」についての全体討議が行われました。求められている日本というコンテンツ、日本語での就職、日本の学びという姿勢は崩すことなく、「日本語集中講義」と「English Track」を取り入れていく必要があるという結論となりました。そして池田伸子先生から、決して目標の数字を追うのではなく、責任を持って正規学部留学生を受け入れていかなければならないというお言葉をいただきました。
今回、本学の先生方・各地域の中等教育での日本語教育に関わる先生方・入学センターの方の話を聞き、正規留学生の増加には日本語教育に直接携わる中核の方のみでなく、その周りの組織や機関、学生自身といった多くの人々の協力が重要であると感じました。学生がこのようなプログラムや目標についての情報を知って行動すべきだと感じました。そして、私自身も日本語教育に携わる一員として、今回得たものと自分の経験を周囲に伝えていきたいと思います。