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ホーム>イベント・事業報告>講演会・シンポジウム 講演会・シンポジウム日本語教育センターシンポジウム2015日本語教育センターの活動の社会還元として、またセンターのFDの一環として、講演会、シンポジウムを開催しています。 大学の国際化と日本語教育におけるプログラム評価 ―過去・現在・未来ー
*シンポジウム冊子はこちら レポーター:異文化コミュニケーション研究科言語科学専攻1年次 加藤 充 学生レポートこんにちは、学生レポーターの加藤です。今回は立教大学日本語教育センター主催の「大学の国際化と日本語教育におけるプログラム評価‐過去・現在・未来‐」というシンポジウムに参加しましたので、その内容をお伝えします。第1部は田丸淑子先生、池田伸子先生、山口和範先生の3名による、日本語教育のプログラム評価についてのご講演がありました。その後第2部では、西原鈴子先生、小澤伊久美先生、長尾眞文先生の3名を交えた計6名での指定討論、そして会場からの質疑応答を交えた全体討論という進行でした。世界的にグローバル化が進む中、日本を取り巻く状況は刻々と流動的に変化し続けています。大学として、また日本語教育を行う組織として、こうした中でどのような貢献ができるのかを考える、とても貴重な機会であったと思います。 第1部ではシンポジウムの表題にある通り、プログラム評価の過去、現在、そして未来について、それぞれ3名の先生方によるご講演がありました。 はじめに元国際大学教授の田丸淑子先生より、「日本語教育のプログラム評価過去について」というテーマでお話しいただきました。田丸先生は2007年に「日本の大学における日本語教育プログラム評価の評価基準の施策と試行」という研究成果を発表されています。その背景にある3つの観点についてご説明くださいました。まず大学行政者や奨学金出資者への客観的証拠が求められた点が挙げられ、活動成果の報告や説明が主観的なものであっては、内外から正当な評価がされません。予算や人員といった、組織の運営に欠かせない資源を獲得するためにプログラム評価が求められました。次に2003年より始まった認証評価制度を受け、「教育の質の確保」が求められた点です。 例えばイギリスではBALEAP等の団体が活動するなどして、研究成果や資源獲得、他組織との競争力などに寄与しています。こういった教育の質を担保する動きが世界的にある一方で、日本はまだまだ遅れている点が指摘され、個人レベルでの努力に留まらせず、それが組織全体へ反映される仕組みを設けることが急務になっていると述べられました。最後に、国内の大学における日本語教育の在り方への疑問という点について、特に国立大学の現状が紹介されました。国費留学生の急増を背景に、留学生センターを設置する大学が多くなった一方で、人員や時間を十分に確保できない脆弱な教育体制、他組織との共通認識の欠如などが問題点として浮き彫りとなりました。こうした背景から田丸先生は、評価を教育活動の中に位置付けること、評価に日本語教育の特徴を反映させること、評価に主体的に取り組むことの3点が必要であると述べられていました。 次に本学前日本語教育センター長の池田伸子先生より、「日本語教育のプログラム評価のこれからについて」というテーマのお話がありました。田丸先生の研究を踏まえて考えると、10年前の日本語教育には組織の透明性、外部の視点、他組織との連携という3点で十分だったとは言い難い状況でした。日々まじめに教育に取り組む日本語教師ですが、その評価活動は内向き、画一的な傾向があることが示されました。まず内向きに関して、学生の日本語能力や異文化理解能力がどの程度進歩したかを評価することは重要であるが、その評価は組織の中や関係者同士でしか公表、活用されていない、つまりオーディエンスを意識した「評価」というよりも、教師が何を測りたいかという「研究」である性格が強く出ているそうです。また画一的について、評価の項目が他の組織や科目と同じものを使い回していて、日本語教育の特性が反映されておらず、その結果として正確な日本語教育の評価をすることができていないことが示されました。それと同時に、その背景には日本語教育という組織の立場の弱さ、dissemination (普及、宣伝)の不足があることが示されました。また国際化の影響を受け各大学は、留学生の受け入れや日本人学生の送り出しをしています。しかしそこで英語が持つ影響力が大きく、日本語(教育)があまり重要視されていない現状があります。こうした事態を受け、日本語学習者、国内外の教育機関、学内の国際化担当、学内の関係部局と連携した日本語教育研究組織を立ち上げ、外向きな姿勢を作り、強固な協力関係を築いていく必要があるとのご提言がありました。 そして本学副総長、国際化推進機構長の山口和範先生に、「大学の国際化の観点から期待する日本語教育センターのプログラム評価」について、大学組織という観点からお話しいただきました。はじめに、立教大学はTGU構想のタイプB (グローバル化牽引型)に採択され、その構想の中で具体的な数値目標として、学生の送り出しや留学生の受け入れ、海外協定校数などが掲げられていることが紹介されました。そのカギとなっているのがRikkyo Global 24という、カリキュラム、学生の意識、ガバナンスの3つの改革を進めて国際化を図る取り組みです。「グローバルリベラルアーツ」と「リーダーシップ教育」という2本の柱により支えられた教育課程により、「自ら考え、行動し、世界と共に生きる」新しいグローバルリーダーを10年間で4万人輩出することを目指しているそうです。またこれと同時に、日本の学生向けの教育から世界の学生向けの教育への転換が求められていること、具体的には英語コース等の設置で「英語を学ぶ」から「英語で学ぶ」教育へ転換をし、日本語ができる学生だけでなく、日本語は立教で学べるという点を強調することで、優秀な人材を世界から招くことができる環境作りを進めていることが紹介されました。こうした点でセンターやそのプログラムが担う役割は大きく、充実したプログラム展開や本学内外の組織との連携を通して、教育と研究を両立していくことが期待されているとお話しくださいました。 続いて第2部では田丸先生、池田先生、山口先生に加え、西原先生、小澤先生、長尾先生の3名を交えた計6名での指定討論が行われました。 まず国際交流基金日本語国際センター長の西原鈴子先生より、はじめに日本語教育と少子化という観点からのご指摘がありました。国策として少子化対策のために海外から人材を受け入れた場合、日本語ができないと就業できないため、日本語教育を行う機関がその受け皿となること、そしてその出口戦略というところに日本語教育の意義があり、その活動成果を大学の広報として国内外に発信していくことが重要であるとご説明されました。また評価の対象がプログラムのみならず、教員の研究業績や教育実践、社会貢献にまで及ぶことが必要であると述べられました。
次に国際基督教大学日本語教育課程課程准教授の小澤伊久美先生が、開発型評価(Developmental Evaluation)への発想転換についてご提言がありました。今日大学が置かれている流動的で複雑な環境下では、従来型の評価が機能しにくく、評価の在り方もこれに対応していかなければなりません。開発型評価は「客に合わせたメニューを提供するレストラン」というメタファーで表現されます。そして開発型評価を実践する土台作りとしてセンターは、データを活用した運営、評価スキルの向上、他部署との連携を進めていくことが重要であるとお話しされました。また大学の国際化の測定可能性、評価者の負担、内部と外部の評価者の関わり方が課題として残っているとご指摘がありました。 また国連大学サステイナビリティ高等研究所客員教授であり、プログラム・アドバイザーの長尾眞文先生は、シンポジウム全体を総括してお話しくださいました。池田先生のお話にあった外向きの評価については、開発型評価を通して行われる必要があります。またTUGに採用されたことで、立教大学は他大学との相対の中で評価がされることが求められます。競争の中で様々なプログラムが提供されていますが、「立教評価モデル」の作成と実施を通して自主的な評価を進め、文科省や受験生などの関係者に公表していくことが欠かせないということに加え、センターの役割として経験知識を共有し、副機構長が機構全体の評価に貢献していけるのではないかと述べられました。
指定討論を通して田丸先生からは、何をもって国際化というのか、または何をもっての国際化なのか、TGUに採択されたことで気を緩めず、過酷な評価が待っていることを認識すべきとのご指摘がありました。また池田先生からは、大学とセンターが共通のゴールと国際化についての認識を持つためには、機構内で意見交換する場を設けることが必要だとお話しされました。最後に山口先生は果たしてきた役割と同時に、成果の公開や広報など果たすべき役割に目を向ける重要性、若手とベテランの教職員が連携して共通認識や組織作りを進めていく取り組みの意義をご説明していただきました。 最後に会場を含めた全体討論としては、学内の教職員や内外の日本語教育に携わる方々が多く出席されていたので、活発な議論が行われたと思います。会場からは、本学のGLAP (Global Liberal Arts Program) における日本語(教育)の意義について、また日本語教育の画一的であった評価について質問がありました。また恥ずかしながら、私からも留学生と在学生の関わりの在り方について質問をさせていただきました。 立教大学はTGUに採択されたことで、大きな変革が求められています。これにより、学生の受け入れと送り出しは一層活発になっていくでしょう。こうした中で大学としてできるサポートは何か、その評価をどう進めていくかについて、本シンポジウムが参加者全員に考えるきっかけを与えてくれたと思います。特に登壇してくださった6名の先生方からは、それぞれ異なる視点からのご意見やご指摘をいただけました。私としてはマクロとしての大学の取り組みに関わっていきたいと考えた一方で、ミクロとしての学生レベルでも何かできることがあるのではないかと考えさせられる、とても有意義な時間でした。 |