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ホーム>イベント・事業報告>講演会・シンポジウム 講演会・シンポジウム日本語教育センターシンポジウム2024日本語教育センターの活動の社会還元として、またセンターのFDの一環として、講演会、シンポジウムを開催しています。 正規学部留学生受け入れの新時代3
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日 時 | 2024年7月13日(土)13:30~17:00 |
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場 所 | 池袋キャンパスマキムホール(15号館)M301教室 |
主 催 | 日本語教育センター |
登壇者 | 瀬下 龍太郎氏 (東京外国人雇用サービスセンター就職支援ナビゲーター) 小島 緑 (キャリアセンター 職員) 蕭 培恩さん (本学卒業生、株式会社Cygames 勤務) ダム ティラン アインさん (異文化コミュニケーション学部 4年) |
コメンテーター | 松井 秀征 (国際化推進機構長、法学部教授) 池田 伸子 (日本語教育センター長、異文化コミュニケーション学部教授) |
コーディネーター | 丸山 千歌 (異文化コミュニケーション学部教授、日本語教育センター員) |
司 会 | 泉 大輔 (日本語教育センター教育講師、日本語教育センター員) |
対象者 | 本学学部生・大学院生・教職員、一般 |
申し込み | 不要 (直接会場へお越しください。) |
レポーター:異文化コミュニケーション学部 2年次 神田黎
皆様、こんにちは。学生レポーターの神田黎です。今回の立教大学日本語教育センターシンポジウムでは、「正規学部留学生受け入れの新時代3―留学生のキャリア支援はこれでいいのか?―」をテーマに開催されました。これまでのシンポジウムで、本学が新たな留学生を受け入れる意義、その役割や日本人学生に与える効果などについて考えてきたことを踏まえ、今回のシンポジウムは、受け入れた留学生のキャリア支援に焦点を当てて進められました。
今回のシンポジウムでは、まず、立教大学キャリアセンターから、本学の留学生に対するキャリア支援プログラム、就職状況、現在の課題を報告し、次に日本での就職を希望する留学生を数多く見てきた相談員の方をお招きし、企業が求める留学生の人材像について共有いただきました。そして、本学卒業生、現役学生から日本での就職活動の経験を語ってもらうとともに、日本語教育センターの先生、キャリアセンター職員、相談員も交えたパネルディスカッションで意見交換を行いました。そのうえで、どのようなプログラムを提供する必要があるのかを提示し、本学の留学生に対するキャリア支援の方向性について全体討議を行いました。
はじめに、観光学部教授、日本語教育センター副センター長である舛谷鋭先生より、開会の辞を頂戴しました。観光学部という産業名が入った学部だと、留学生を含め学生たちはキャリアを心配しないと思われるかもしれないが、実際は2〜3割の学生しか就職せず、他の学生は様々なことを考えながら、出口を探していると仰られました。また、立教大学を起点に社会に出ていく学生たちが少なからず社会へのインパクトを持っているとし、全体の約5%を占める、1000人を超える留学生を含めた全学生が、それぞれどのような出口を探していくのかを、今回のシンポジウムで様々な正しい知見と、考える時間を持つことで探りたいと述べられました。
続いて、日本語教育センター長、異文化コミュニケーション学部教授の池田伸子先生から、今回のシンポジウムの趣旨説明が行われました。まず、立教大学の日本語教育センターは、立教大学の国際化を支える、そして微力ではあるが促進することを目指して日々活動していると述べられました。その点から、多様なニーズを持った留学生のための、多様な日本語教育プログラム、全体の留学生に対して大学独自の漢字検定試験の年4回の開催、日本語相談室の開設など様々な取り組みをご紹介していただきました。また、交換留学生を受け入れることで、キャンパス内の国際化は促進されるが、「大学が『真の意味で』国際化するためには『正規』留学生が鍵であると思っている。さらに、多様な国や地域からの正規学部留学生を受け入れる必要がある」と述べられ、留学生と日本人学生がともに4年間学んでともに卒業していくという環境が、立教大学の国際化を下から広げていくために大切なのではないかと考えていると述べられました。
また、立教大学に入ってきた学生に責任を持ってキャリア問題、つまりは出口の問題を考えておくことで、留学生を日本に着地させ、つなげることができるとし、様々な取り組みや、開催しているプログラム、科目のラインナップはこれで正解なのかをきちんと問いたいと強調されました。そして、現在日本語教育センターとして、これまで展開してきたものへの問いに対する答えをどう見つけるか悩んでいるところを、様々な意見を伺うことによって、キャリア支援や留学生の就職を促進していくことができるプログラムの基礎を探り、再構築していくための材料を少しでも集めたいという願いをご共有いただきました。
続いて、キャリアセンターの小島緑さんから、立教大学が行っている留学生に対するキャリア・就職支援をご紹介いただきました。立教大学では、学生生活の時期に合わせ、就職はゴールではないと考え、その後のキャリアまで見通した”線”で支援を行っていると述べられました。
キャリアセンターでは、4年間を通じ、留学生を含めた学生一人ひとりの成長に寄り添えるようなプログラムが用意されています。留学生にとっては、日本の大学生活に着地し、様々な体験を通して視野を広げることと並行して、日本の就職活動に関しても理解を深め、留学生本人が自立して進路選択ができるようにするために、留学生対象のプログラムも多数展開しているそうです。
また、現場で感じる留学生の課題についてもご共有いただきました。①国内学生に比べ、外国人留学生の就職活動開始時期が遅いこと、②日本語による就職活動の方法を理解していないことによる苦労、③大手志向・視野の狭さなどが挙げられました。
これらの課題への対応として、①留学生オリエンテーションや1年時の日本語科目での日本の就職活動の流れを説明した動画の視聴や、留学生の内定者体験談を聞いて就職活動のイメージを広げる「外国人留学生対象就職ガイダンス」、②SPIや面接のポイントや対策方法を理解するための「外国人留学生対象就活準備講座」の開催、③1業界につき3社が登壇する「業界研究SPECIAL TALK」や「RIKKYO卒業生訪問会」などを適宜催しているそうです。また、プログラムではカバーしきれない個別の悩みや質問に対応するため、キャリアセンターでは留学生相談枠も設けた「キャリア相談」があるそうです。
最後に、留学生へ、キャリアセンターのプログラムなどの情報をどう届けるか、キャリアセンターとして、従来と異なる日本語力、背景の留学生をどう支援していけるか、といった今後の課題を共有され、後半に行われるパネルディスカッションや、今回のシンポジウム全体を踏まえて対応策へのヒントを得たいと述べられました。
続いて、東京外国人雇用サービスセンター就職支援ナビゲーターの瀬下龍太郎様より、「現場から見た外国人留学生の就職活動―企業は何を決め手に採用しているのか―」を題材にお話を賜わりました。現場で直接外国人留学生と関わり、話をする中で、学生側も様々な、細かいことを考えて企業を選んでいるとし、親の志向を慮る文化的背景で大手志向になっている部分もあるのではないか、などの考察を共有していただきました。続いて、学生側と同様に、企業側も様々なことを考慮しているとし、企業の主な留学生の採用理由を紹介していただきました。また、就職活動の段階によって必要とされる日本語能力に違いがあることを初めに、面接で評価される日本語能力を多数ご紹介いただきました。そして、日本語と母語の言語的な違いや、日本ならではの就職活動文化によって留学生が感じる葛藤があるとし、その中で、「日本では当たり前」と押し付けるのではなく、自分の人物像を理解してもらうために必要なこと、またはその効果を丁寧に説明し、理解してもらうことが必要と強調されました。企業は人間性を決め手に採用しており人間性に伴う日本語能力が必要だと述べられました。
休憩を挟んだ後半には、「本当に学生のためになる留学生へのキャリア支援とは?」と題し、パネルディスカッションを行いました。まず、本学卒業生と、内定が決まっている在学生のお二人を登壇者としてお招きし、大学時代の日本語能力向上について行ったことや、就職活動についてご共有いただき、続いて、前半でお話しいただいた小島さんと瀬下様のお二方からお言葉を頂戴し、質疑応答を行いました。
一人目の登壇者は、本学卒業生で、現在株式会社Cygamesに勤務されている蕭培恩様です。蕭様は、終身雇用などの日本の雇用形態に魅力を感じており、日本の会社に就職を決めたそうです。大学生時代は、日本語能力の向上のためにシャドーイングやリスニングの練習をして、自分のアクセントを改善したそうで、それが就職活動のときに自分を理解してもらうことの助けにもなったと述べられていました。蕭様は、自分は就活の中で早めの準備が大切だと運良く気づき、先輩やOBに連絡を取って情報収集をすることができたが、多くの留学生は日本の就職活動を良く理解していないと感じていたそうです。留学生の中の情報格差を解消するために、危機感をもたせるようなサポートが必要なのではないかと述べられました。そして、就職活動解禁や、ウェブテストの情報だけでなく、それらのための事前準備はいつから始めるべきかの情報も知らせてあげてほしいと仰られていました。最後に、大学で日本語を母語とする学生たちと学ぶ中で、日本企業が求める日本人と一緒に働けるコミュニケーション能力を養うことができ、それは就職後社会人になってからも求められているスキルだと思う、と述べられ、大学生活の中での自身の研鑽の仕方と、今後の留学生へのサポートへの期待をご共有いただきました。
二人目の登壇者は、異文化コミュニケーション学部4年生のダム・ティラン・アインさんです。アインさんは、自国が経済発展途上国なので、日本で就職し経験を積んで、自国に知識を持ち帰ってその知識を自国の発展に役立てたいと2年次から就職活動への準備を進めていたそうです。必修科目やキャリア実践をすべて履修し、早いうちから企業説明会に参加することで、何が必要かを探って準備に役立てたそうです。また、授業だけでなく、課外活動にも力を入れたことが、コミュニケーション能力の向上につながったと述べられました。そして、留学生の就職活動へのサポートとして、メンタリング制度があれば良いと仰られました。ガイダンスなど全体に向けたものだけでなく、個人に沿ったメンターが1対1でサポートしてくれたら安心だと述べられました。最後に、勉強だけではなく、イベントや説明会などを体験することで考え方が変わることもあるかもしれないので、多くのインプットをして準備することが重要だと強調されていました。
次に、小島さんと瀬下様を交え、主にお二人から蕭様とアインさんに質問をする形でディスカッションが行われました。瀬下様からは、アインさんに就職活動の中で挫折はあったかという質問がありました。アインさんは、最初の1社は準備不足のためESで落ちてしまったが、そこから1社ごとに考えて準備して応募したそうです。失敗してから、キャリア相談をし、次の用意へとつなげた経験談をお話しいただきました。また、小島さんからアインさんへ、就職活動の情報はどこにあったらキャッチしやすいかと質問がありました。答えとして、メールには、他の就職支援サイトなどからもたくさん情報が届くので、情報が埋もれやすいため、授業中の宣伝が効果的だと思うと述べられ、アインさんも実際に授業中に情報を得て活用したとお答えいただきました。皆さまのパネルディスカッションから、留学生の間の情報格差の実態や、就職活動のためにどのようなスキルをどう伸ばすのか、今後のより有効なサポート組み立てへの道筋が見えたのではないかと感じました。
パネルディスカッションのあとは、池田先生と、国際化推進機構長で法学部教授である松井秀征先生より、それぞれ日本語教育センターと、大学としての受け止めとしてお言葉を頂戴しました。日本語教育センターの受け止めとして、池田先生は、今回のシンポジウムを通して、まだ議題への悩みはあるが、やることは明確化したと仰られ、今後どのように日本で就職を望む留学生へのサポートをするべきか、いくつかの案をご共有されました。また、必要な情報を必要なタイミングで伝える必要があると強調されました。そして、松井先生は、留学生の就職の問題に着目してくれて有り難いと感謝を口にされ、今回は就職という「出口」を考えるシンポジウムだが、私たちはまだこの問題を考えるための「入口」にいると述べられました。
職に就くことは、社会とつながるひとつの方法であり、人は生活するうえで、社会とのつながりを必要とします。今回のシンポジウムに参加し、留学生のキャリアサポートは、彼ら自身を社会へとつなげるだけでなく、立教大学と社会をつなげる取り組みなのではないかと考えました。そして、日本での就職を目指す留学生たちを、全力でサポートしようとする方々のお話を聞き、松井先生が仰ったように、立教大学は現在留学生の出口を考えるための入口に立っており、これからも、彼らの学生生活やキャリアのサポートを通じて、立教大学の国際化のために歩み続けるのだろうと感じました。